はじめまして。初回のテーマは相続放棄です。

はじめまして。南越谷法律事務所代表弁護士の小池智康です。当事務所は、平成24年6月1日に設立されました。当事務所の特徴は取り扱い業務を絞り込んでいる点にあります。業務を絞り込んだ分、事例やノウハウを集中的に蓄積し、皆様に還元したいと考えております。

このコラムでは、実務上、私が気になった事例を皆様にご紹介したいと思います。

初回は、相続放棄に関する事例です。

Aには、B・C・Dの3人の息子がいます。B・C・の三人とも既に実家を出ておりましたが、Aが高齢ということもあり長男のBがAと同居することになりました。そこで、Bは、A所有の土地(以下「本件土地」といいます)の上に自己名義の建物を建て、AはBの住宅ローンの連帯保証人になりした。

その後、Aが亡くなり相続が発生しましたが相続税がかからないこともあり、遺産分割協議を行わないまま3年ほどが経過しました。C・Dとしては、父の遺産は父と同居していたBが取得すべきだと考えていましたので特に遺産分割に関することを話題にもしませんでした。その後、Bは給与が下がったこともあり、住宅ローンの支払が困難になり自己破産をしようと弁護士に相談しました。

この事例でBが自己破産をすること自体には特に問題はありません。問題なのはむしろC・Dです。

何故ならC・Dは連帯保証債務を一部負担することになってしまうからです。

相続が発生すると、相続財産は積極・消極いずれの財産も法定相続分の割合で共同相続人に帰属します。今回のケースもAの連帯保証債務をB・C・Dが承継しているためC・Dも住宅ローン債権者に支払をする義務が生じてしまうのです。Bが住宅ローンを滞りなく支払っている間は問題ないのですが、Bが破産するということになればC・Dに対して請求がなされる可能性は高くなります。

では、このようなケースでC・Dはどうすれば良いでしょうか。

よくある誤解としては、B・C・D間で遺産分割をして、Bが積極・消極全ての財産を取得すれば、C・Dは連帯保証債務は引き継がないというものがあります。実際、このような処理がされているケースも良くあります。しかし、相続人間で特定の相続人が債務を承継すると合意しても債権者にその効力は及びません(債権者の同意がある場合は別)。そうすると、C・Dとしては、相続財産を全部Bに譲ったので自分には全く関係ないと思っていた連帯保証債務を突然請求されることになってしまいます。

そこで、債務を承継することを望まないのであれば、C・Dは相続放棄をする必要があります。しかし、今回のケースのC・Dは相続放棄をする期間(熟慮期間)を経過してしまっている可能性が高いのです。熟慮期間については、裁判例において例外を認めておりますが、例外要件を満たすかは不透明です。C・Dとしては、相続を望まないのであれば、相続発生後直ちに相続放棄をすべきだったといえます。

相続で連帯保証債務を承継してしまうパターンとしては、

(1) 連帯保証債務の存在に気付かなかった

(2) 連帯保証債務の存在は知っていたが遺産分割で他の相続人が遺産を承継したので自分には関係ないと勘違いした

(3) 自分も連帯保証債務を承継するのは分かっていた。主債務者が問題なく支払えると考えたが見込み違いだった

とのパターンがあるように思われます。

特に、(1)に関して、借金の支払が滞っている場合は督促状が届くなどするため熟慮期間中に借金の存在に気がつきますが、連帯保証債務は、主債務者(B)が滞りなく支払をしていると督促がなされないため気がつかないままだったというケースが散見されます。

知らない間に連帯保証債務を相続すると大問題になりかねません。

相続において、住宅ローンの連帯保証がないかについて今一度ご確認いただき、ご不明な点は弁護士にご相談ください。