住宅ローン滞納対策としての任意売却と残債務の処理~その②~

南越谷法律事務所の弁護士小池智康です。

 

このコラムは、埼玉県越谷市、春日部市、草加市、三郷市、吉川市、八潮市、川口市、さいたま市、足立区(北千住・西新井)等の地域を対象に情報提供することを目的としています。

 

今回のコラムは、前回に引き続き、任意売却と残債務の処理についてです

 

今回のコラムでは、前回のコラムで予告したとおり、任意売却後の残債務を処理する方法を具体的に検討します。

 

任意売却に限ったことではありませんが、借金に対する対応法というのは、大きく分けて

『返済する(一部返済を含む)』  か  『返済しない』

しかありません。

 

したがって、任意売却後の残債務に対しても、返済をするのか否かを決めることが必要になります。

以下では、残債務を返済するケースと返済しないケースに分けて債務の処理方法を検討します。

 

1、『返済をする』ケースとは?

 

それでは、どのような場合、残債務を弁済するかということですが、住宅ローンの支払いが困難になって自宅を任意売却するような場合は、残債務を返済するという選択肢をとることは余りありません。

住宅ローンの支払いが困難になる方は通常、住宅ローン以外にも消費者金融などからも借金をしており、任意売却で住宅ローンを圧縮しただけでは借金問題が解決しないこと、自宅を処分してしまった以上、無理をして住宅ローンの残債務を支払うよりも、残債務を根本的に整理してしまったほうが経済的な更生が早いということがあります。

このように、自宅を任意売却した場合、残債務を支払い続けるというケースはあまりありませんが、以下のようなケースでは、任意売却後の残債務の支払いを継続することになります。

 

①会社が所有する遊休不動産や閉鎖する工場などを売却するケース

②不動産賃貸業を営む方が賃貸物件を売却するケース(自宅は別に所有・住宅ローンあり)

 

 このようなケースであれば、

ⅰ)残債務の支払い条件を任意売却後の収入で支払い可能な条件に変更してもらって返済を継続する

ⅱ)任意売却で債務を圧縮した上で、住宅ローン条項付小規模個人再生手続を申し立てて自宅を所有したまま任意売却の残債務を圧縮し、圧縮後の債務を分割で返済する  (上記②、法人であれば通常再生手続を申し立てる)

という対処法により、残債を無理なく支払えることができるため、任意売却による債務圧縮の効果が生きてきます。

 

注意していただきたいのは、これらの事案では、①であれば会社の事業、②であれば自宅、という「最も重要な要素」を残すためにそれ以外の不動産について任意売却を行っているということです。

 

2、『返済をしない』ケースとは?

 

次に、返済をしないケースについて検討してみます。任意売却後の残債務について返済をしないケースというのは、返済をするケースと関連付けて言えば、「最も重要な要素」を任意売却してしまった以上、残債務を返済し続ける必要性が乏しくなってしまったケースということになります(法律上、返済をする必要があるのは当然ですが・・)。

例えば、住宅ローンの支払いが困難になって自宅を任意売却した場合が典型例といえます。

加えて、住宅ローン以外にも複数のカードローンなどの借り入れがあったり、住み替え後も住宅ローンと同程度の賃料を支払う必要があるケースなどでは、任意売却により、住宅ローンを圧縮しても毎月の支出がさほど変わらない状況のため、借金の返済を含めた支出を削減する為の手段として任意売却はそれほど有効ではありません。

このような場合は、残債務を含めた全ての債務を自己破産により整理することが必要です(したがって、「返済をしない」ケースでは、最終的に自己破産により債務を免責されることから、任意売却の債務圧縮機能は余り効果的ではありません。このケースでは、むしろ、所有者(住宅ローン債務者)が自宅を処分する時期を自ら決められること、売却代金から一定額の引っ越費用を受領できることが任意売却のメリットになると思われます)。

 

ここで大切なことは、任意売却と自己破産手続を時間を空けずに行うということです。任意売却を行って債務を処理したつもりになったとしても、結局は問題の先送りに過ぎず、かえって経済的な更生を遅らせてしまいます。

 

結局のところ、任意売却が債務の処理にどの程度有効に働くかは、個々の事案との関係で決まります。

 

任意売却をお考えの方には、ご自身のケースで本当に任意売却が有効か否かにいて、もっと気軽に弁護士にご相談いただきたいな、と思う次第です。